あな素晴らしや、生きた本 のようです

(番外編・あな悍ましや、ホラー漫画)

 

972 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:11:58 ID:gslfhTKcO

>>965

 

⊂( ^)  いらねえって言ってんだろ!!

 /   ノ

 し―-J |l| |

         人ペシッ!!

       __

       \ 

          ̄ ̄

 

(;*゚ー゚)「丹精込めて作ったのに!!」

 

 

 

六話後編書き上がりました

後編だけで五話目以上の長さになってしまったので、急遽「中編」と「後編」に分けます

中編投下は今日の夜中か、明日の夜にでも

 

 

先にスレ埋め

番外編投下しマダム

 

 

973 少しだけ閲覧注意2011/06/04() 19:13:04 ID:gslfhTKcO

 

 ――長岡デレがVIP図書館と出会うより2ヶ月前。

 夏のお話――

 

 

 

ω`)

 

 ぱちん。

 己が事務所のソファに寝そべっていた遮木ショボンは、腕に止まった蚊を掌で潰した。

 

 ティッシュペーパーで死骸を掴み、ごみ箱に放り投げる。

 と、同時に、事務所のドアが開いた。

 見知った顔。ショボンは体を起こし、「いらっしゃい」と声をかけた。

 

ξ゚听「お邪魔します……あ、涼しい」

 

(;^ω^)「ショボン、助けてくれお……」

 

ω`)100万」

 

(;^ω^)「相談する前から料金請求すんな! しかも何を想定してそんな高額を!?」

 

 友人の内藤ホライゾンと、付き添いのツン。

 ショボンの向かいのソファへ腰掛ける。

 

ω`)「君がわざわざ事務所にまで来て依頼するなんて珍しいからね。

      で? どうせ本の話でしょ?」

 

ξ゚听「当たり」

 

(;^ω^)「……そう難しい話でもないんだお。ターゲットも確定してるし」

 

ω`)「じゃあ自分で行けよ」

 

(;^ω^)「行ったお。……行って失敗したからお前に頼みに来たんだお」

 

 内藤に向けて怠そうな表情を浮かべてやると、内藤は両手を合わせ、頭を下げた。

 ここまで下手に出るとは珍しい。何やら深刻な問題があるようだ。

 

 

974 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:13:35 ID:gslfhTKcO

 

(;^ω^)「頼むお! ニュッ君がもう怒り心頭で、早く何とかしないと……」

 

ω`)「何とかしないと?」

 

ξ゚听「そろそろモララーに八つ当たりし始めるわ。というか始めてるわ」

 

 いいんじゃないの、別に。

 冷めきった声で、ショボンは言い捨てた。

 

(;^ω^)「いや、それでモララーが逃げたらどうなると思うお!?

       次は僕が八つ当たりの餌食になるに決まってるお!」

 

ω`)(ああ、モララーの心配じゃなくて自分の心配ね)

 

(;^ω^)「ニュッ君の機嫌があんなに悪くなったのは久々だお……。

       いや普段から機嫌良さそうには見えないけど」

 

ω`)「いいからさっさと事の成り行き話せよ」

 

(;^ω^)「あ、そうだおね。――これを見てほしいお」

 

 内藤がショボンに手渡したもの。

 漫画。単行本。

 おどろおどろしい表紙。

 

 『恐怖のとき』、というタイトルらしい。

 

ξ゚听「オムニバス形式のホラー漫画なんですって」

 

ω`)「ふうん。作者は――指差プギャー。知らないな」

 

( ^ω^)「デビューは5年前。

       これといったヒット作もなく、ぱっとしない漫画家だったらしいけど――」

 

ξ゚听「2年前に『恐怖のとき』を描き始めてから、人気が出てきたらしいの」

 

 大体予想はついてきた。

 本をぱらぱらめくりながら、話の続きを促す。

 

 

975 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:13:57 ID:gslfhTKcO

 

ω`)「それで?」

 

( ^ω^)「ニュッ君が、この漫画を本屋で立ち読みしたら……」

 

ω`)――展開に見覚えがあった、と」

 

( ^ω^)「……だお」

 

 

 

番外編 あな悍ましや、ホラー漫画

 

 

 

 新幹線。

 ショボンは、隣に座る女性を横目で見た。

 

 ブラウスから伸びる、細く青白い腕。

 長い黒髪が、顔や首、背中を覆う。

 まるで幽霊のような見た目をした女。山村貞子。

 

 ショボンは視線を外し、昨日、内藤とツンから聞いた話を思い返した。

 

 

 ――いわく、『恐怖のとき』に掲載されている話は、全て貞子の作品そのまま。

 違いがあるとすれば、登場人物の名前が少し変わっている程度。

 

ω`)『掌編が好きなんだっけ、貞子。なるほどね。それで漫画もオムニバス』

 

ξ゚听『オムニバスだけじゃなく、たまに特別編と称した長めの話もあるのだけれど』

 

( ^ω^)『それも貞子が書いた長編と展開が一致するんだお』

 

ω`)『ふむ。……なら、この指差君は貞子の本を何冊も持ってることになるね』

 

( ^ω^)『多分』

 

ω`)『それは分かったけど、どうしてニュッ君が怒るのさ』

 

 

976 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:14:21 ID:gslfhTKcO

 

( ^ω^)『何て言うか……「自分だけのため」に書かれた物語が、

       第三者の手によって「大勢の人間のため」に、ばらまかれたわけだから』

 

ξ゚听『独占欲を踏みにじられたような。嫉妬――とはちょっと違うかしら』

 

ω`)『ああ。自分の彼女が、悪いお兄さんに攫われて風俗に売られる感じ?』

 

( ^ω^)『えぐい例え方すんなお。

       ……それで、この間、僕とツンが指差プギャーのところに行ったんだお』

 

 「そんなの知らねえよ、妙な言い掛かりつけんじゃねえ」――

 玄関先で、散々どやされたそうだ。

 

( ^ω^)『すごく恐かった……』

 

ω`)『やあだブーンちゃん情けない。

      モララー……は泣いて帰ってくるから駄目か。クックルに任せれば?』

 

( ^ω^)『絶賛執筆中だお』

 

ω`)『あっそう。――はあ、面倒臭い……

 

 

 そうして現在、ショボンは他県に住む指差プギャーのもとへ向かっているわけだが。

 

川д川「……」

 

 何故だか、貞子がお供を申し出たのである。

 『恐怖のとき』を読み耽っている貞子に、ショボンは話しかけた。

 

ω`)「何で来たの」

 

川д川「……悪い……?」

 

ω`)「いや、悪くないけど」

 

 

977 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:14:40 ID:gslfhTKcO

 

川д川「……これ」

 

 貞子が、漫画を閉じる。

 嘆息。

 

川д川「ほぼ完璧なの……」

 

ω`)「展開とか台詞とか?」

 

川д川「……そうじゃなくて……。いや、それもそうなんだけど……。

    間の取り方とか、アングルとか、表情とか、容姿とか……。

    ほとんど、私のイメージと完璧に合ってるのよ……」

 

川д川「……何だか、描いた人に興味が出てきたの……」

 

ω`)「ふうん」

 

 到着する。

 貞子は鞄に漫画をしまうと、さっさと立ち上がった。

 

 ――新幹線から降りた2人は、メモに書いておいた指差プギャーの住所を確認した。

 少し歩けば、すぐに辿り着く筈だ。

 

ω`)「暑いな。早く行こう」

 

川д川「ええ……」

 

 ショボンの目の前を蚊が飛んだ。

 振り払う。

 

 首筋が、ちくちくと痛いような痒いような感覚に襲われた。

 いつの間にか刺されていたようだ。舌打ちする。

 

ω`)「これだから夏は嫌なんだ」

 

 

 

*****

 

 

978 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:15:09 ID:gslfhTKcO

 

(#^Д)――だから! んなもん知らねえっつってんだろ!!」

 

 マンション。ある一室の前。

 指差プギャーは、自身の漫画をショボンに投げつけた。

 

ω`)……ぶち殺すぞ……

 

(#^Д)「あ!?」

 

(´-ω-`)……。ええと。こちらにいらっしゃる、山村貞子さんがですね。

      あなたの描く物語に、大変見覚えがあると」

 

(#^Д)「山村貞子なんて見たことも聞いたこともねえよ!!」

 

 物凄くぶん殴りたい。

 ショボンは眉間に寄る皺を指先で伸ばし、募る苛々を誤魔化した。

 

 「知らない」。先程から、これの一点張りだ。

 

 本当に知らないわけはない。

 貞子を紹介した際、彼はあからさまに動揺した。

 

川д川「……私、怒ってるんじゃありません……。ただ、返してほしいだけで……」

 

(#^Д)「何が目的なんだよ!? 大体なあ、証拠出してみろよ証拠!

      あんたが山村貞子で、俺があんたの小説持ってるって証拠をよお!!」

 

川д川「……」

 

(#^Д)「ったく、売れてくると頭おかしい奴が寄ってくるから嫌になるよなあ!」

 

ω`)……強情な)

 

 ショボンが口を開く。

 しかし、彼が何かを言う前に、貞子の方が先に動いた。

 

川д川「……なら、帰ります……」

 

ω`)「は?」

 

 

979 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:15:33 ID:gslfhTKcO

 

 驚くショボンを尻目に、鞄から本を取り出す。

 ラベルが貼られた、黒いハードカバー。

 彼女の本。

 

川д川「本、返してくれなかったこと……後悔しますからね……」

 

 言って、本をプギャーに突きつけた。

 プギャーは訝しげな顔をする。

 

( ^Д)……何だよ」

 

川д川「どうぞ、これも活用してください……」

 

 呆気にとられる彼の手に本を握らせ、貞子は踵を返した。

 

 プギャーへ会釈し、ショボンは貞子の後を追った。

 

ω`)「いいのか」

 

川д川「……あの本に、館長の名刺挟んどいたわあ……」

 

ω`)「それが?」

 

川д川「……明日、電話かかってくるでしょうね……」

 

 くすくす。

 それはそれは楽しそうに笑い、貞子は振り返った。

 

 未だ立ち尽くしているプギャーに、言い捨てる。

 

川д川「夏は、虫、多いから……気を付けてくださいねえ……」

 

 

 

*****

 

 

980 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:16:27 ID:gslfhTKcO

 

 ――夜。

 昼に訪ねてきた女、山村貞子を思い出して、プギャーは頭を掻きむしった。

 

( ^Д)……絶対に返すもんか……

 

 部屋の隅に詰まれた何冊もの黒い本を見下ろす。

 数年前に知り合いから貰った本。プギャー好みのホラー小説。

 初めは普通に読んで楽しんでいたのだ。

 

 だが。

 漫画家の血が騒いだ。

 漫画にして表現してみたくなった。

 

 勿論、発表する気はなかった。個人的な楽しみとして描いただけ。

 鉛筆で手早く、雑に。けれど彼の趣味をふんだんに用いた手法で。

 描いただけ。

 

 ただ――編集担当が。

 たまたま机に置いてあった、その落書きレベルの漫画を見て。

 面白いから、原稿に描き直せと。

 

 きっと売れるから、と。

 

( ^Д)……

 

 血迷ったのだ。

 何を描いてもヒットしない。

 果ては、描きたくないジャンルを無理矢理描かされ、それすら不発に終わる。

 藁にも縋る思いだった。

 

 「山村貞子」について、インターネットや図書館、書店で散々調べた。

 彼女がまったく世間に知られていないのを確認する。

 そして――『恐怖のとき』の連載が始まった。

 

( ^Д)……俺の、初めて成功した作品なんだ……返さねえぞ……

 

 本を撫で、プギャーはふらふらと洗面台へ向かった。

 最悪な気分だ。

 歯を磨いて、さっさと寝よう。

 

 

981 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:17:08 ID:gslfhTKcO

 

 歯ブラシを口に突っ込み、雑に磨く。

 不安が滲んだ。

 山村貞子は存外あっさり帰っていったが、何を考えているのだろう?

 

( ^Д)……

 

 暴露されたら。

 自分は――

 

 

( ^Д)……ん、え?」

 

 不意に違和感。

 喉から舌の付け根にかけて、ざわざわ、擽られるような。

 

 ぶうん。ぶうん。

 モーターに似た音が響く。

 

 歯ブラシを引き抜き、プギャーは口を大きく開いた。

 

( ^Д)

 

(;^Д)「あ?」

 

 靄が口から飛び出した、ように見えた。

 

 靄。違う。

 

(;^Д)「なっ、あ、は? あ、あが、」

 

 大量の虫――蚊だ。

 

 プギャーが腰を抜かす。

 

 次から次へと、蚊の大群が喉の奥から流れ出る。

 空気を吸えば、蚊が奥へと戻る。鼻で呼吸をすれば、口だけでなく鼻からも蚊が現れる。

 喋るのも、息をするのもままならない。

 

 舌や歯を動かせば、蚊が潰れ、嫌な感触と味が広がった。

 

 

982 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:17:37 ID:gslfhTKcO

 

 わけが分からない。

 辺りが黒くなっていく。顔や手に蚊がぶつかる。羽音がうるさい。

 

 混乱の限りを尽くしたプギャーは、咄嗟に耳を塞いだ。

 喧騒から逃れるためではない。妙な感覚があったからだ。

 

 ――柔らかいものに触れる。

 指で摘み、恐る恐る、それを見た。

 

(;^Д)「ひ」

 

 

 白い。

 蛆が。

 

 知覚した途端、うじゃうじゃと、耳の穴から一斉に何かが這い出る感触がした。

 

 

 

*****

 

 

983 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:18:12 ID:gslfhTKcO

 

 

 

川д川「ニュッ君は怒ってたけどねえ……私は、ちょっと嬉しかったのよ……」

 

 数日後。図書館。

 段ボール箱で送られてきた本を手に取りながら、貞子は呟いた。

 

ω`)「嬉しい?」

 

川д川「私の本を、一番怖く、面白く見せる描き方で漫画にしてくれたんだもの……」

 

ω`)「ああ……何か言ってたね、そんなん」

 

川д川「残念だったわあ……。素直に認めてくれればおとなしく許してあげたのに……」

 

ω`)「何したのさ」

 

川д川「……漫画を見る限りじゃ、あの人のところにある私の本は

    『生きてない』ものばかりだったわ……」

 

川д川「だから――『生きてる』本に、懲らしめてもらったの……」

 

 ある一冊を引っ張り出すと、貞子はショボンの眼前に掲げた。

 あの日、プギャーに渡したものだろう。

 

川д川「指差さんが悪い人だったら、思う存分彼を主人公にしてやってね……って、

    事前に本には言っておいたわ……」

 

 その作戦は、見事成功したらしい。

 一体どんな話で懲らしめたのかは知らないが、何とまあ恐ろしいことだ。

 

 貞子が笑う。

 

 

984 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04() 19:18:52 ID:gslfhTKcO

 

 

川д川「今は、ホラー小説が張り切る季節だしねえ……。……うふふう……」

 

ω`)……これだから夏は」

 

 ぱちん。

 耳元で羽音を響かせた蚊を叩き、ショボンは溜め息をついた。

 

 

 

 

 

番外編 終わり