ζ(゚ー゚ あな素晴らしや、生きた本 のようです

 

430 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:50:39 ID:D9WHLNZMO

木曜にまた大きな地震がありましたが皆様ご無事でしょうか

 

 

第四話前編投下しマングース

 

 

431 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:52:05 ID:D9WHLNZMO

 

  _

( ゚)「面白いですか?」

 

( д )……――はい?」

 

 新幹線。

 河内ミルナは、その言葉が自分に向けられたのだとはすぐに気付けなかった。

 

 顔を上げると、通路を挟んだ隣の席に腰掛けている男と目が合った。

 濃い眉毛が特徴的な男。

 目元に皺が見られる。40――前半、ほどか。

  _

( ゚)「すみません、邪魔しちゃって。

     ――それ、面白いですか?」

 

( д )「それ?」

  _

( ゚)「その本。熱心に読んでたものだから」

 

( д )……ああ、はい、なかなか面白いですよ」

 

 頷き、ミルナは先程まで読み耽っていた本を顔の前まで持ち上げた。

 落ち着いた、薄い黄緑、柳色のハードカバー。

 

( д )「古本屋の店主から譲ってもらったんですが……これがまた奇妙な本で」

  _

( ゚)「奇妙?」

 

( д )「手書きなんですよ」

 

 

432 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:53:41 ID:D9WHLNZMO

 

 通路に手を伸ばし、本を開いてみせる。

 男は興味深そうに「ほう」と頷いた。

  _

( ゚)「素人の本なのかな?」

 

( д )「かもしれません。作者も聞いたことがない名前だし」

  _

( ゚)「ふむふむ」

 

    「……んん……」

 

 不意に男の向こう側から声がした。

 見れば、妻らしき女性が目元を擦っている。

 

('`*川「ジョルジュさん、どうかしたの……?」

  _

( ゚)「ちょっとお隣と話を」

 

('`*川「また……。ごめんなさいね、うちの人が何か邪魔しませんでした?」

 

( д )「あ、いえ、別に……

  _

( ゚)「ペニサスさんが寝てしまうと、どうにも退屈で」

 

 

433 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:54:21 ID:D9WHLNZMO

 

('`*川「いい年して忙しない人ですねえ。ゆっくり景色でも眺めてればいいのに」

  _

( ゚)「景色よりもペニサスさんの寝顔に目を奪われるね」

 

('`*川「あらやだ、恥ずかしい人」

 _

(;゚)「なっ……は、恥ずかしいかな……

 

('`*川「ええ」

 

 くすり、女性が笑った。

 歳は男と近そうだが、その割に綺麗な人だとミルナは思った。

 

 派手な美人だというわけではない。

 「奥ゆかしい」。そう表現するのが、一番それらしい。

 

( д )「ご夫婦で旅行ですか?」

  _

( ゚)「いや、家に帰るところです。

     今は仕事で遠くに住んでるんだけど、数日ほど休暇をとれたので。

     久しぶりに、家に1人でいる娘に会おうかと」

 

( д )「娘さんが1人で」

  _

( ゚)「まだ高校生なんですよ。転勤先に一緒に引っ越そうと提案したんですが、

     学校のこともあるから残りたいと言って聞かなくて」

 

 

434 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:55:18 ID:D9WHLNZMO

 

( д )「奥様は旦那さんについていかれたんですね」

 

('`*川「この人を1人で生活させるのが、あまりにも恐ろしかったから」

  _

( ゚)「浮気なんかしないってば」

 

('`*川「浮気なんかよりも、まともに家事出来ないのが心配なんですよ」

 _

(;゚)「む……

 

 仲の良さそうな夫婦だ。

 ミルナの口元が緩む。

 

('`*川「あなたは? お仕事でしょうか」

 

( д )「ああ、はい。4日ほど出張で」

 

('`*川「大変ですねえ……どちらへ?」

 

 ミルナが出張先を告げると、女性が「あら」と呟いた。

 彼らの目的地は、同じ町だったのである。

 

 

435 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:55:54 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

第四話 あな可笑しや、時代小説・前編

 

 

 

.

 

 

436 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:56:47 ID:D9WHLNZMO

 

 季節は冬へ近付いていく。

 最近、めっきり冷え込んできた。

 

 寒さには強いと自負していた長岡デレも、すっかりコートを着込んでいる。

 

ζ(゚、゚「うー、さぶ、さぶ」

 

 日曜日。午後。

 林の中、VIP図書館に続く道を歩く。

 くしゃり。足元で、枯れ葉が微かに鳴いた。

 

ζ(゚、゚「あ」

 

 ふと顔を上げると、枝に止まっている小鳥が数羽、目に入った。

 冬に備えてもこもこになっている姿が可愛らしい。デレは思わず微笑む。

 

ζ(゚ー゚「ふふ……――

 

 

 ぽとん。ぽとん。

 

 何かが、デレの頭と首元に落ちた。

 

 

ζ(゚ー゚

 

ζ(゚ー゚「?」

 

 

437 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 22:58:19 ID:D9WHLNZMO

 

 雨は降っていない。

 デレは右手を首に伸ばした。

 指先に、ねちょりとした感触。

 

 恐る恐る、指を見る。

 水気を含んだ、白い「何か」。黒い小さな「何か」も混じっている。

 

 嫌な予感を覚えつつ臭いを嗅いだ。

 

ζ(゚ー゚

 

 あまり強くはないが、くさい。

 

 ああ、やっぱりこれは。

 

 糞だ。

 

 

438 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:00:01 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

 

 

ζ(;;*ζ「お、お風呂貸してくだしゃひぃ……

 

;*ω^)「えっ……な、何、今日のデレちゃん積極的」

 

「どういう思考回路なの」ξ゚听≡⊃))ω゚)「エドガワッ!!」

 

 図書館に着くなり、デレは出迎えてくれた館長、内藤ホライゾンにそう訴えた。

 何故かときめいている内藤の顔面をツンが殴る。

 

ξ゚听「どうしたの?」

 

ζ(;;*ζ「鳥の糞が……糞が頭と首に……

 

ξ゚听……あらまあ」

 

 おいで、とツンがデレの手を引き、階段へ向かった。

 殴られた鼻を押さえつつ内藤もついてくる。

 

 

439 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:01:13 ID:D9WHLNZMO

 

 階段を上りながら、ツンはデレに振り返った。

 

ξ゚听「着替えとかどうしましょう……私ので大丈夫かしら?」

 

ζ(゚、゚……う、うん、多分」

 

 背丈は同じくらいだが、腰回り等は多分ツンの方が細い。

 服が入らなかったらどうしよう、とデレは本気で悩んだ。

 

ξ゚听「あ、さすがに下着までは貸せないけれど」

 

( ^ω^)「おっおっお、ツンのブラジャーはデレちゃんには小さすぎるお」

 

 ツンの拳を、内藤はすれすれで躱した。

 落ちたらどうする、と喚く内藤にツンは冷ややかな視線を送る。

 

ζ(゚、゚……うん、胸は勝った。胸だけは)

 

ξ゚听……デレ、その目は何?」

 

ζ(゚ー゚「え? な、何でもないよ?」

 

 

440 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:02:10 ID:D9WHLNZMO

 

 2階に到着した。

 靴からスリッパに履き替える。

 

( ^ω^)「そういや、デレちゃんはこの前2階に来たんだっけ」

 

ζ(゚、゚「はい、お昼をご馳走に」

 

ξ゚听「あのときは留守にしててごめんなさいね。

      ――ああ、着替えやタオルはあなたが入ってる間に用意しておくわ」

 

ζ(゚ー゚「うん、ありがとー」

 

(*^ω^)「なんなら、ふひひ、お背中お流しいたしますおー」

 

ξ゚听≡⊃)))ω゚)「ランポッ!!」

 

ξ゚听「デレ、こっち」

 

ζ(゚ー゚「はい……

 

 廊下を左に進む。

 奥まで行くと、ツンは左の壁にあるドアを指差した。

 

 

441 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:03:15 ID:D9WHLNZMO

 

ξ゚听「こっちが脱衣所とお風呂。

      シャンプーや石鹸は好きに使っていいから」

 

ξ゚听……そういえば、足は大丈夫?」

 

ζ(゚ー゚「もうお風呂に入っても問題ないよ」

 

 ――前回の事件で、デレは両足を負傷した。

 転んだだけの割に傷は深く、未だ包帯は取れないし、薬を飲まなければ痛みも覚える。

 だが、当の本人はまったく気にしていない。

 

ξ゚听「それも気になったけど、そうじゃなくて。

      ガーゼとか包帯とか、用意しなくていいの?」

 

ζ(゚、゚「あ、そっか。……あるなら、お願いしていい?」

 

ξ゚听「ええ、分かったわ。じゃあ、さっさと入っちゃって」

 

ζ(゚ー゚「はーい」

 

 

442 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:04:42 ID:D9WHLNZMO

 

 そのとき。

 ドアが開いた。

 

 

( ・∀・)「ふぃー、さっぱりしたー」

 

ζ(゚ー゚

 

( ・∀・)「ん?」

 

 

 中から、首にタオルを引っ掛けた男が現れる。

 

 全裸で。

 

 

ζ(゚ー゚

 

(;・∀・)

 

ζ(д

 

(;

 

ζ( д ;ζ――ぃいいやぁああああああああああああああああああ!!!!!」

 

(*;;)「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 デレと男の悲鳴が、屋敷中に轟いた。

 

 

443 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:06:17 ID:p.Gz/NyY0

頬を染めるなwww

 

 

444 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:06:38 ID:D9WHLNZMO

 

(;゚)「なっ、何だ!? どうした!」

 

 慌てた様子で堂々クックルが駆けてくる。

 顔を両手で覆うデレと全裸の男を見ると、大体状況を把握出来たようだった。

 

(;゚)……だから風呂に入るときは着替えを持っていけと」

 

(;^ω^)「ツン、見ちゃ駄目だお! 汚れる!」

 

ξ゚听ジーッ

 

ζ(∩∩「きゃあああああ! きゃー! いやああああ!」

 

(*;;)「見ないで! 見ないでえええ!」

 

(;゚)「蹲ってないで早く部屋に戻れ馬鹿」

 

(*;;)「うわあああああん!!」

 

 

 ――クックルに引っ張られた男が泣きながら退散し、

 ようやく騒ぎは治まった。

 

 

445 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:09:32 ID:D9WHLNZMO

 

(;^ω^)「大丈夫かお、デレちゃん」

 

ζ(><;ζ「ううう……

 

ξ゚听「デレ、お風呂入ってきちゃいなさい」

 

ζ(><;ζ「はぐう……、行ってきます……

 

 逃げるようにデレが風呂場に入っていく。

 ツンはタオルや着替えを取りに、自室へ向かった。

 

 

 

*****

 

 

446 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:10:33 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

(;д )「はあ?」

 

爪゚ー゚)「ですから、予約は入っていません」

 

(;д )「予約しましたって!」

 

;゚ー゚)「あっ、あう……で、でもでも、本当に……

 

(;д )……

 

;゚ー゚)……ひ、ひい……

 

(;-д- )――分かった。分かりました。……どうも失礼しました」

 

 溜め息をつき、河内ミルナはホテルから出た。

 

 部屋の予約を入れていた筈なのに、

 それが取り消されていた――というよりなかったことにされていた――のだ。

 その上、満室で別の部屋をとることすら出来なかった。

 

 ホテルを間違ったというわけでもない。

 だが、彼の性格上、向こうを責め立てる気にもならなかった。

 

 

447 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:11:39 ID:D9WHLNZMO

 

( д )……はあ」

 

 新たな宿を探しながら、ふとミルナは右側を見た。

 雑貨屋の窓ガラス。そこに映った自分の顔――瞳。

 鬱屈した気分が増す。

 

 ミルナは、この目にコンプレックスを抱いていた。

 彼は普通にしているつもりでいても、他人からは睨んでいるように見えるらしい。

 ぎょろりとした感じの。

 

 そのおかげで恐がられることはしばしば。

 先程のホテルでも、フロント係の女性に怯えられた。

 

( д )(やだなあ、畜生……

 

 

 

*****

 

 

448 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:12:53 ID:D9WHLNZMO

 

 ――頭と体を洗い、新たに包帯を巻き終えたデレは、ツンに食堂へ連れていかれた。

 わざわざ1階へ下りるのも面倒だろう、ということで。

 

( ^ω^)「お、来た来た。さっぱりしたかお、デレちゃん?」

 

ζ(゚ー゚「はい!」

 

( ^ω^)「それはそれは。――適当に座ってくれお。

       今クックルがお茶の準備をしてるお」

 

 内藤の向かいにデレが座る。

 ツンは内藤の隣に。

 

ξ゚听「服は洗濯してるからね」

 

ζ(゚ー゚「何から何までありがとう。うん、ほんと……

 

 無意識に胸を撫で、デレは口ごもる。

 

 ツンの服が入るかという心配は杞憂に終わったが――

 

ζ(゚ー゚(ほんの少し胸がきついと言ったら、怒られるかな……

 

ξ゚听……どうかした?」

 

ζ(゚ー゚「あ、いえいえ、何にも」

 

 ゆったりした服を好むデレと、ぴったりとフィットする服を好むツン。

 そのたった一つの違いが、残酷な格差を浮き彫りにさせていた。

 

 

449 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:13:58 ID:D9WHLNZMO

 

( ゚)「お、上がったか」

 

 厨房のドアが開く。

 右手で盆を支え、左手にポットを提げたクックルが現れた。

 

 クックルの好きなミルクティーとチョコレートが出されるのかと思っていたが、

 それぞれの前に置かれたのは湯飲み茶碗と大福の乗った皿。

 茶碗の中には煎茶が入っている。

 

 デレ達4人分――いや、5人分だ。

 

( ゚)「多分モララーが来るだろうから煎茶にしたが、嫌だったら言ってくれ」

 

ζ(゚ー゚「こういうのも好きですけど――モララー、って?」

 

( ゚)「ああ、すまん。さっきの奴だ」

 

ζ(゚ー゚「さっき……

 

 さっきの奴、といえば。

 

ζ(゚ー゚(ぎゃあ)

 

 数十分前の光景が脳裏を過ぎり、デレは頭を抱えた。

 異性の裸など、まして全裸など、幼少時に父親と風呂に入ったときにしか見たことがない。

 自分の裸を見られたわけでもないのに、やたら恥ずかしい。

 

 

450 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:16:11 ID:D9WHLNZMO

 

     「――あのう、館長、いる?」

 

 そこへ割り込んだ、心地良い声。

 食堂のドアが開かれる音がする。

 

( ・∀・)「あ、いたいた」

 

 声の主は「さっきの」男だった。

 

 真っ先にデレの目に入ったのは、紺色の着物。

 今時珍しい和装に、デレの興味が一気に沸き上がった。

 

 視線を上げてようやく気付いたのだが、男は妙に整った顔立ちをしていた。

 外に立っているだけで女が寄ってくるだろう。

 

( ・∀・)「ニュッ君どこか知らない?」

 

 年齢は20代前半辺りであろうか。着物のせいか、きりりとした印象を受ける。

 

 小脇に本を一冊抱えた男は、デレを見付けるや否や

 頬を真っ赤に染めて、気まずそうに会釈した。

 

 デレから目を逸らしながらそそくさとツンの隣に移動し、腰を下ろす。

 クックルが男の前に煎茶と大福を置いた。

 

 

451 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:17:40 ID:D9WHLNZMO

 

( ^ω^)「ニュッ君ならハローと一緒に買い物行ってるお」

 

( ・∀・)「え……」

 

( ^ω^)「どうしたお、本を書き上げたのかお?」

 

ξ゚听「ああ、だからこんな時間にお風呂入ってたのね」

 

( ・∀・)

 

( ;;)ブワッ

 

ζ(゚ー゚「!?」

 

( ;;)「なあああんでええええ! 折角完成したのにいいいいいいい!!

      すぐに読んでほしかったのにいいいいいいいい!!」

 

(--)……

 

 溜め息をつき、クックルはデレの隣、ツンの向かいに腰掛けた。

 急須を乗せた盆とポットをテーブルの隅に寄せる。

 

( ;;)「わああああああああああ!!」

 

 突っ伏して号泣する男。

 デレはクックルの腕を引っ張った。

 

 

452 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:19:03 ID:D9WHLNZMO

 

ζ(゚、゚「あ、あの、何かすごく泣いてますけど……

 

(--)「放っとけ。こいつが泣く度にいちいち構ってたら身が持たないぞ」

 

( ;;)「俺に黙っていなくなるなんて酷いよおおおあああああああ!!」

 

(;^ω^)「何でお前にわざわざ断らなきゃいけないんだお……。

       ――あ、デレちゃん」

 

ζ(゚ー゚「は、はいっ」

 

( ^ω^)「こいつは茂等モララー。作家だお。

       えー……見ての通り、すぐ泣く奴だから、気にしないで」

 

( う∀;)「う、うぐ、ひうっ……

 

ζ(゚、゚「はあ……

 

( ^ω^)「モララー、この子は……前に話したおね、デレちゃんだお」

 

( う∀;)「ああ、あの……よろし、ひぐう」

 

ζ(゚ー゚「よ、よろしくお願いします」

 

 

453 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:22:40 ID:D9WHLNZMO

 

 1、2分もすると、茂等モララーの泣き声は収まった。

 綺麗な顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 

ζ(゚ー゚「どうぞ」

 

( ・∀・)「ありがとう……」

 

 デレが鞄から取り出したポケットティッシュを渡す。

 大人しく受け取って鼻をかむモララーの頭を、ツンが軽く撫でた。

 

( ゚ω゚)「あ? 泣くだけで女の子から優しくされるなんてイケメンは得ですなあ……?

      ていうかお前今ツンたんに撫で、撫でら、な、おま、おい、おい」

 

(;゚)「落ち着け。……モララー、大福食え大福」

 

(*・∀・)「わーい」

 

 モララーは大福に勢いよく噛みつき、幸せそうに笑った。

 見た目は20代でも中身は小学生以下なのではないかと、デレは疑いの眼差しを向けた。

 

ζ(゚、゚……

 

( ゚)「面倒な奴だから関わりたくないなら無視しとけ。

     ニュッ君なんて、ろくに会話しようとすらしないぞ」

 

ζ(゚、゚「あ、いえ……全然、平気です、はい」

 

 

454 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:25:34 ID:D9WHLNZMO

 

 変人を相手にするのは、この図書館で慣れました――とは言えない。

 曖昧に誤魔化し、デレは大福に手を伸ばした。

 

 と、同時。

 

 

ハハ -)ハ「タッダーイマー!」

 

( ^ν^)「……」

 

 

 食堂の扉を開け放ち、「作家」の1人、ハロー・サンが現れた。

 彼女の後ろに内藤ニュッもいる。

 

ξ゚听「あら、おかえり」

 

ハハ -)ハ「おつかい完了デッス。――お、デレ! 見馴れない靴があるカト思えば!」

 

ζ(゚ー゚「こんにちは、ハローさん、ニュッさん……はぷっ」

 

 ハローはデレに駆け寄り、思いきり抱きしめた。にこにこ、何やら嬉しそうだ。

 足の具合を問われたので、大したことはないと答えると、抱きしめる力が強くなった。

 ハローの腕に引っ掛けられた買い物袋が、がさがさと音をたててやかましい。

 

 

455 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:26:44 ID:D9WHLNZMO

 

 さて、一方のニュッはといえば、ツンの隣に座るモララーを見て固まっていた。

 正確に言えば、近寄るのを躊躇っていた。

 

 対するモララーは意気揚々と立ち上がる。

 

( ^^)

 

( ・∀・)「ニュッ君おかえり!」

 

( ^^)

 

( ・∀・)「探したよ! 待ってたよ! うん、本当に待っt……」

 

( ;;)ブワッ

 

ζ(゚ー゚(あ、また泣いた)

 

( ;;)「待ってたよおおおおおおおおお!

      何で出掛けてるんだよおおおおおおお!!」

 

( ^^)

 

 

456 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:27:33 ID:D9WHLNZMO

 

( ;;)「俺頑張ったよ!?

      机とノートに一日何時間も向かい合って文字を書き続けたんだよ!?」

 

( ;;)「何回も行き詰まったし!

      根本から話を練り直すのだっていっぱいあった!」

 

 至近距離で対峙する。

 モララーは、柳色の本をニュッの胸元に押しつけた。

 

( ;;)「着想からこれを書き上げるまでにかかった時間、実に4ヶ月!

      俺にしちゃあ早い方だよね! 出来上がったときは泣いて喜んだよ!

      やっとニュッ君に読ませてあげられるってね!」

 

( ^^)

 

( ;;)「なのに何でいないんだよ馬鹿あああああああああああ!!

      俺の心はずたぼろだよ! ……デレちゃんに裸見られるし……」

 

( ^ν^)

 

 ――唐突に、モララーはデレの名を出した。

 崩れ落ち、ニュッの足元でおいおいと声をあげる。

 

 

457 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:29:29 ID:D9WHLNZMO

 

( ;;)「う、生まれたままの姿……初対面だったのに……いきなり……

 

ζ(゚、゚「おいちょっと待て語弊があるマジで」

 

( ^ν^)「……随分と仲良くやってるみたいだな」

 

ζ(゚、゚「やっと喋ったと思ったらニュッさーん!!

      たしかにモララーさんの裸は見ましたが事故っていうか何ていうか」

 

ハハ -)ハ「……デレ……

 

ζ(゚、゚「ハローさんどうしたの目が冷たいよ!? 私は潔白ですからね!?」

 

ハハ -)ハ「シャンプーと石鹸の匂いがしマス。髪も少し濡れてマスネ」

 

 

458 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:30:25 ID:D9WHLNZMO

 

ζ(゚、゚「そっ……れは、ええと、シャワー浴びたからですけど、あの、別に」

 

( ^ν^)

 

ζ(゚、゚「いや! 何もいかがわしい理由じゃないですよ!?

      ふ、糞を、糞を流すために――」

 

ハハ; -) ≡≡≡

 

ζ(゚、゚「あっれえ!? ハローさんが凄い勢いで離れた!!

      とてつもない誤解された予感!」

 

ハハ; -)ハ「サスガにそういうプレイはチョット」

 

ζ(゚、゚「ぎゃあああああああ!!!!!」

 

 

 

(;^ω^)「……この状況はどうしたもんかお」

 

ξ゚听「関わるだけ無駄」

 

(--)……おい、お前ら一回黙って状況整理しろ」

 

 

 

*****

 

 

459 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:33:21 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

ハハ -)ハ「――ナーンダ、ただの事故デスカ」

 

 事情を把握したハローは、うんうんと頷きながらクックルの横に座った。

 ニュッはモララーの隣。

 

ハハ -)ハ「てっきりデレが浮気したのカト」

 

ζ(゚ー゚「う、浮気!?」

 

ハハ -)ハ「だってホラ、デレに怪我をさせてしまいましたカラ、ワタシが責任とらなキャ」

 

ζ(゚ー゚「いやあ、女同士ですので。

      ……ていうか、だからハローさんのせいじゃないですって」

 

ハハ -)ハ「何デスカ、ノリの悪イ。

      あ、クックルー、ワタシとニュッ君にもオ茶ー」

 

( ゚)「ああ」

 

 

460 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:35:14 ID:D9WHLNZMO

 

 それからしばらく雑談などして、時間は過ぎ。

 

 夕方。

 そろそろ帰ろうとデレが言った。

 

ξ゚听「はい、デレの服。ちゃんと乾いてるから」

 

ζ(゚ー゚「ありがと! ツンちゃんの、洗って返すね」

 

 デレの服が入った紙袋を受け取り、席を立つ。

 ちらとニュッを見たが、モララーの本に夢中になっていた。

 

ζ(゚ー゚「さようなら」

 

( ゚)「ああ」

 

ハハ -)ハ「また来てネ!」

 

( ・∀・)「じゃあねー」

 

 

461 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:36:01 ID:D9WHLNZMO

 

( ^ν^)

 

ζ(゚、゚

 

ζ(゚、゚「ニュッさーん」

 

( ^ν^)

 

ζ(゚、゚……くっそう、ちょっとぐらいこっち見ろよ……

 

( ^ω^)「こういう子だから。――デレちゃん、車で送ってくお」

 

ζ(゚、゚「いえいえそんな」

 

( ^ω^)「暗くなってきたし、まだ足も治ってないし。ね?」

 

ζ(゚、゚……じゃあ、お願いしていいですか?」

 

(*^ω^)「全然構わんおー。デレちゃんのためならえんやこら」

 

ξ゚听「私も行くわ」

 

(*^ω^)「おっお、両手に華だお」

 

 

462 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:37:46 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

 ――図書館を出て、内藤の車に乗り込む。

 運転席に内藤、助手席にツン、後部座席にデレ。

 エンジンをかけながら、内藤が振り返った。

 

( ^ω^)「どっか寄りたいところはあるかお?」

 

ζ(゚ー゚「いえ、特に」

 

( ^ω^)「んじゃあ真っ直ぐデレちゃんの家に向かうってことで」

 

ξ゚听「安全運転でね」

 

( ^ω^)「はいはいおー」

 

 そういえば、と、デレは内藤とツンを見つめた。

 

 いつも2人は一緒にいる。

 どちらか片方が何かしらの用事で場を離れるとき以外、

 彼らが1人になっているところを見たことがない。

 

 

463 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:38:34 ID:D9WHLNZMO

 

 普段の様子と内藤の性格から、彼の方がツンに引っ付いているのかとも思えるが――

 

ξ゚听「フェンス、私が開けてくるわ」

 

( ^ω^)「ん、頼んだお」

 

 考えてみれば、ついさっき、ツンが自ら同行を頼んだのだった。

 内藤が一方的に執着しているわけでもなさそうだ。

 

 ――フェンスの前で停車し、ツンが降りる。

 彼女がフェンスの鍵と扉を開けたのを確認し、発進。

 車が林から出たところでもう一度停まる。

 フェンスに鍵をかけ、ツンが再び乗車した。

 

 毎度毎度、行きと帰りに同じ手順を踏まなければならない。

 防犯のためとはいえ、多少面倒臭いのは事実。

 

 以前、もっと手軽に済む方法もあるのではとデレがつっこんだこともあるが、

 長年これでやってきたから、といなされてしまった。

 

 

464 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:41:06 ID:D9WHLNZMO

 

(*^ω^)「おっおー、おんおんおーん」

 

ξ゚听「ブーン、音痴」

 

(;^ω^)「た、楽しけりゃいいんだお、歌は」

 

ξ゚听「聴かされるこっちの身にもなって」

 

(;^ω^)「ツンたん辛辣!」

 

 「ブーン」。ツンは内藤をこう呼ぶ。多分あだ名だろう。

 ニュッは「兄ちゃん」、作家達は「館長」。

 彼をブーンと呼ぶのは、デレの知る限りツンだけだ。

 

ζ(゚、゚(本当に仲良いんだなあ)

 

 いつからこういう仲になったのやら。

 ツンはデレと同年代らしいから、内藤とは10歳以上も離れている。

 

 ツンが何歳のときに図書館へ連れてこられたのかは分からないが、

 昔からこんな感じだったのかもしれない。

 とんでもない犯罪臭に鼻が曲がりそうである。というか今も下手すれば充分犯罪か。

 

 

465 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:42:40 ID:D9WHLNZMO

 

 

 取り留めもないことを話しながら走ること十数分。

 長岡家に到着した。

 

( ^ω^)「また今度ー」

 

ξ゚听「またね」

 

ζ(゚ー゚「はい、ありがとうござ……

 

 門の前で降車したデレは、我が家を見て、「あれ?」と呟いた。

 

 リビングの掃き出し窓から明かりが漏れているのだ。

 

ζ(゚、゚「電気……

 

( ^ω^)「ん? デレちゃん一人暮らしじゃ……」

 

ξ゚听「電気の消し忘れじゃない?」

 

ζ(゚、゚「ううん、そんな筈――

 

 まさか。

 

 不安に駆られたデレは玄関まで走り、ドアに手をかけた。

 開かない。

 

 

466 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:44:14 ID:D9WHLNZMO

 

 鍵を出すより先に、インターホンを力強く押した。

 屋内から、ぴんぽおん、と間延びした音が聞こえる。

 次いで、ぱたぱたという、スリッパがたてる小さな足音。

 

ζ(゚、゚

 

 やっぱり。

 デレが確信すると同時に、ドアが開かれた。

 

('`*川「あらあら、おかえりなさい、デレさん」

 

ζ(゚、゚――お母さん!!」

 

(;^ω^)「え?」

 

ξ゚听「お母さん?」

 

 中から現れた女性は、デレの両頬を華奢な手で挟んだ。

 久しぶり、と優しい声で言う。

 

 

467 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:45:32 ID:D9WHLNZMO

 

('`*川「うりうり」

 

ζ(゚、゚「うむむ……っぷあ! な、何で!?」

 

('`*川「もしかしたら年末に帰ってこれないかもしれないからって、

     ジョルジュさんがお休みとったんです。3日ぐらい泊まっていきますからねー」

 

ζ(゚、゚「急すぎ! いつ来たの!?」

 

('`*川「お昼ちょっと過ぎくらいかしら……――あら?」

 

 門の向こうに停まっている内藤の車に気付き、母、長岡ペニサスは首を傾げた。

 

('`*川「あちらは?」

 

ζ(゚、゚「え……知り合いと、友達。送ってもらったの」

 

('`*川「まあまあ」

 

 デレの手を引いて、ペニサスが車に駆け寄る。

 ツンが助手席の窓を開け、一礼した。

 

 

468 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:46:55 ID:D9WHLNZMO

 

('`*川「どうも、デレさんの母です。娘がお世話になってます」

 

( ^ω^)「いやいや、こちらがお世話になってるといいますか……。

       色々手伝ってもらって、助かってますお」

 

('`*川「そうなんですか? ええと……

 

( ^ω^)「内藤と申しますお」

 

('`*川「内藤さんですね。そちらは?」

 

ξ゚听「ツンです」

 

('`*川「ツンさん、デレさんと仲良くしてあげてくださいね。

     この子、普段は家に1人でいるから、何かあったらよろしくお願いします。

     頭あんまり良くないし――」

 

ζ(゚、゚「ちょっ、お母さん!」

 

( ^ω^)「その上、好奇心旺盛ですからお。

       お母様が心配なさるのも無理はないかと」

 

('`*川「でしょう? ふふふ」

 

( ^ω^)「おっおっお」

 

ζ(゚、゚(あれ、何だろうこの空気すごく和やかなのに恥ずかしいいたたまれない)

 

 

469 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:48:09 ID:D9WHLNZMO

 

( ^ω^)「では、僕達はそろそろ」

 

('`*川「あ、はい、引き止めてしまってすみません。お気を付けて」

 

ξ゚听「ええ。さようなら」

 

 

 

 

 

 ――走り去る車の中。

 内藤が真剣な表情で前方を見つめ、ハンドルを握っている。

 やがて、重苦しい口を開いた。

 

( ^ω^)「ツン」

 

ξ゚听「なあに?」

 

 

470 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:49:52 ID:D9WHLNZMO

 

( ^ω^)「僕は基本的に熟女は守備範囲外だったのだけれど……。

       デレちゃんのお母様。あれはなかなかどうして、たまらんお」

 

ξ゚听

 

( ^ω^)「すごく撫で撫でされたい。よしよしされたい。いい子いい子されたい。

       ――ああ、分かっているお、ツン。僕がこれからどうなるか。

       きっと君は3秒後に僕を殴り抜くだろう。分かってる。

       それでも僕は、この情熱を言葉にしておきたかった」

 

ξ゚听「他に言いたいことは?」

 

( ^ω^)「一番愛してるのはツンたんだお」

 

 ツンの拳が目にも留まらぬ速さで動く。

 内藤の側頭部と窓ガラスの間で、鈍い音が響いた。

 

 

 

*****

 

 

471 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:51:33 ID:D9WHLNZMO

 

 

 

('`*川「……はああ……

 

ζ(゚、゚「どうしたの?」

 

('`*川「すっごく綺麗な子でしたね……内藤ツンさんっていうの? お人形さんみたい」

 

ζ(゚、゚「あ、いやいや、内藤さんとツンちゃんは一緒に暮らしてるけど他人だから、

      苗字は……」

 

 苗字は。

 苗字は?

 

ζ(゚、゚……

 

 今更ながら。

 デレは、ツンの苗字を知らないことに気付いた。

 

 内藤ホライゾン。内藤ニュッ。山村貞子。堂々クックル。ハロー・サン。茂等モララー。

 

 これまで会ってきた図書館の人間の内、ツンだけ、フルネームでの紹介をされていない。

 たまたま忘れていただけだろうか。

 

ζ(゚、゚……

 

('`*川「デレさん、早く家に入りましょう。寒いですよ」

 

ζ(゚、゚……はあい」

 

 

472 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:54:11 ID:D9WHLNZMO

 

 

 リビングの椅子に、父、長岡ジョルジュが座っていた。

 デレに手を振り、にっこり、笑みを浮かべる。

  _

( ゚)「デレ! おかえり! ただいま!」

 

ζ(゚ー゚「はいはい、ただいまおかえり」

 

 ジョルジュの振る舞いには、どこか子供っぽい節がある。

 もう46歳になるのだが。

  _

(*゚)「久しぶりだなあデレ。高い高いしてあげよう」

 

('`*川「高校生相手にそれはないでしょ、もう」

 

 くすくす笑うペニサスは48歳。姉さん女房というやつだ。

 ジョルジュとは反対に物静かな女性である。

 

 母性本能が刺激されたんですよねえ、と、

 過去、デレにジョルジュとの馴れ初めを語ったときに言っていた。

 

 それに対するジョルジュの反論。

 俺はぽわぽわしているペニサスさんが放っておけなかったんだよ、とか何とか。

 

 互いに互いが「この人には自分がいなければ」と思っているらしい。

 

 

473 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:55:56 ID:D9WHLNZMO

  _

(*゚)「夏ぶりだなあ。寂しかっただろ」

 

ζ(゚、゚「え、別に……

  _

(*゚)「まったまたあ、素直じゃないんだから」

 

ζ(゚、゚「照れ隠しとかじゃないからね。……ああもう、着替えてくる」

 

 頭を撫でるジョルジュの手を逃れ、デレはリビングを出た。

 階段を上る。踏み締める度、足が僅かに痛んだ。

 

 両親には怪我の話をしていない。

 心配はかけたくないし、黙っておこう。

 

 

 自室に入り、鞄をベッドに放り投げる。

 部屋着に着替えようと箪笥を開けた。

 

ζ(゚、゚……そうだ、ツンちゃんの服、洗濯しなきゃ)

 

 

 

*****

 

 

474 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:57:07 ID:D9WHLNZMO

 

 

(;д- )……っ」

 

 ――ミルナは、住宅街を歩いていた。

 足付きがおかしい。よろよろ、のそのそ。

 

 あれから色々な宿を回ったが、部屋は見付からなかった。

 どこに行っても満室、満室。一室たりとも空きがない。

 さすがに変だ。

 

 しかも、腹が尋常じゃないレベルで減ってきた。

 小一時間前から、ぎゅるるる、と音が鳴りっぱなし。

 

 空腹というより、もはや飢餓。

 喉も渇いた。

 昼食は抜いてしまったが、だからといってこれほどまでになるのはおかしい。

 

(;-д- )「う、う……

 

 ぼんやりと思考が霞む。

 薄暗い道。カレーや、焼き魚の匂いが漂ってくる。

 

 どうして、こんなところを歩いているのだろう?

 

 腹が減った。何か食べたい。何か飲みたい。

 店はないか。コンビニでもいい。何か、何か。

 

 

475 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:57:41 ID:D9WHLNZMO

 

(; д )

 

 腹が鳴る。振動が響く。きゅう、と痛む。

 まるで絞られているみたいだ。

 喉が渇く。唾液じゃ間に合わない。苦しい。息をしたくない。

 

 トロリーバッグのキャスターが、がらがらと騒がしい。

 腕が重い。指が攣る。

 

 動きたくない。

 これ以上動いた、ら。

 

 

(; д )「あ」

 

 

 

 ある家の前で、ミルナは倒れた。

 

 

 

*****

 

 

476 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09() 23:58:59 ID:D9WHLNZMO

 

 

('`*川「お夕飯どうしましょう。外食にします?」

 

 着替えたデレがリビングに行くと、ペニサスに、そう問われた。

 もう夕飯時だ。

 

ζ(゚ー゚「久々にお母さんの料理食べたいな」

 

('`*川「あら、そう? でも冷蔵庫は空っぽなんですよ」

 

ζ(゚ー゚「う」

 

('`*川「冷凍庫は冷凍食品でいっぱいだったのだけどね?」

 

ζ(゚ー゚……ごめんなさい」

 

('`*川「ちゃんと栄養とってます?」

 

ζ(゚、゚「うう……最近、立ちっぱなしで長時間作業すると足が痛んで――

 

('`*川「え?」

 

ζ(゚ー゚「いや、何でもない、ごめんなさいちょっと面倒で、うん」

 

('`*川「もう、だらけすぎないでくださいね」

 

ζ(゚ー゚「はい……

 

 

477 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:00:12 ID:UwJRfMrAO

  _

( ゚)「ペニサスさん。何か中華食べたいな、中華」

 

('`*川「中華? デレさんは?」

 

ζ(゚ー゚「あ、私も……青椒肉絲食べたいかも」

  _

(*゚)「いいねいいね、青椒肉絲」

 

('`*川「お味噌汁は?」

 

ζ(゚ー゚「大根と油揚げ!」

 

('`*川「分かりました。じゃあお買い物に行かなきゃね」

  _

( ゚)「俺も行くよ」

 

 車は両親が住んでいる向こうの住まいに置いたまま。

 

 スーパーまで歩いて行かなければならない。

 防寒着を羽織る彼らを見て、デレは申し訳なくなってしまった。

 

ζ(゚、゚「私が行くよ、買い置きしてなかった私が悪いし――

 

('`*川「いえいえ、久々にこっちのスーパーに行きたいし、大丈夫ですよ」

  _

( ゚)「留守番よろしくなー」

 

ζ(゚、゚……うん」

 

 

478 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:02:17 ID:UwJRfMrAO

  _

( ゚)「行ってきます!」

 

('`*川「行ってきますね」

 

 両親が、連れ添ってリビングを出ていく。

 ぱたぱた廊下を歩く音、ばたんとドアが閉まる音。

 

 それから――

 

ζ(゚、゚「?」

 

 急に外から焦ったような話し声が聞こえた。

 両親のもののようだ。

 

 次いで、玄関のドアが開く音がした。

 

    「デレさん!」

 

ζ(゚、゚「なーにー?」

 

    「お水持ってきてください、お水!」

 

ζ(゚、゚「は、はい!」

 

 ペニサスの慌てた声に急かされ、デレはキッチンに入った。

 一番大きいグラスに水を注ぎ、玄関へ走る。

 

 

479 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:03:18 ID:UwJRfMrAO

 

 水を受け取ったペニサスは、すぐに踵を返した。

 デレもサンダルを履いて追いかける。

 

 門の前で、ジョルジュが男を抱え起こしていた。

 男の顔を上向かせて、ペニサスが男の口にグラスを傾ける。

  _

( ゚)「ほら、水だ。飲めるか?」

 

( д )「あ…………

 

('`;川「少しずついきますよ、苦しかったら言ってくださいね」

 

 グラスの中身はゆっくりなくなっていく。

 空になる頃には、男も回復したらしかった。

 

(;-д )「あ、りがとう、ございます……

  _

( ゚)……おや、君は」

 

(;д )「あれ……新幹線、の」

 

 

480 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:03:53 ID:UwJRfMrAO

 

ζ(゚、゚「知り合い?」

 

('`*川「ええ。……どうしてこんなところに倒れてらっしゃったの?」

 

(;д )……お腹が」

 

('`*川「痛む?」

 

(;д )「いや――

 

 

 ぐうう、と。

 腹が、盛大な自己主張をした。

 

 

 

*****

 

 

481 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:04:57 ID:UwJRfMrAO

 

 

 

( ´ー`)「金欲しいなあ……

 

`ハ´)「お前は口開くとそればかりアルね」

 

( ´ー`)「だって欲しいもんヨ」

 

(*)「働け働け」

 

( ´ー`)「働いてるヨー」

 

(*)「コンビニのバイトだろうが」

 

`ハ´)「バイトすらしてないお前には言われたくないアル」

 

 ――とあるアパートの駐車場。車の中。

 2人の男と1人の女が、ぐだぐだと会話していた。

 

 

482 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:07:57 ID:UwJRfMrAO

 

( ´ー`)「はーあ……バイトの給料じゃ生活費でいっぱいいっぱいだヨ。

      遊ぶ金が欲しい」

 

`ハ´)「バイト増やすアル」

 

( ´ー`)「これ以上働きたくなーい」

 

 運転席に座り、煙草を吸っている男、シラネーヨ。

 助手席に座り、缶ジュースを飲んでいる男、シナー。

 

(*)「俺も金欲しいー」

 

( ´ー`)「バイトでもいいから働け」(`ハ´

 

 後部座席に転がっている女、つー。

 

 彼らは、3年前に大学のサークルで知り合った遊び仲間。

 男勝りなところのあるつーは、女友達よりも、シラネーヨ達とつるむ方を好んだ。

 

 暇なときには集まって馬鹿騒ぎをし、暇でなくとも講義をサボって馬鹿騒ぎをし。

 言ってしまえば――落ちこぼれていく一方だった。

 

(*)「つーちゃん働いたら死ぬ」

 

( ´ー`)「じゃあ死ねヨ」

 

 結局、夏頃に揃って中退し、ろくに就職活動もしないまま自堕落に過ごす日々。

 シラネーヨとシナーはアルバイトで食い扶持を稼いでいるが、

 つーは親の仕送りと、たまにシラネーヨ達から借りる金で何とか暮らしている。

 

 

483 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:09:22 ID:UwJRfMrAO

 

( ´ー`)「あーあ、こいつがいなきゃ、もうちょっと金に余裕が出来るのにヨ」

 

`ハ´)「同感アル」

 

(*)「それは悪いと思ってるよ」

 

( ´ー`)「なら今まで貸した分、返せヨ」

 

(*)「無理!」

 

 アパートにはシラネーヨの部屋がある。

 それでもこうして車内でだらだらしているのは、

 単に彼らがこのスペースを気に入っているからに外ならない。

 

 狭苦しく薄暗い車内。

 これといった娯楽もなく、することなんて、

 雑談するか、ラジオを聴くか、携帯電話をいじるか。それぐらい。

 

 だが、不思議と飽きないものだ。

 3人だけが共有する空間。くだらない会話。

 エンジンをかけ、ギアを入れてアクセルを踏めば、今すぐ遠くへ行ける。

 

 不自由と自由の同居が心地良い。

 

 

484 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:11:23 ID:UwJRfMrAO

 

( ´ー`)「ああ、金金金」

 

`ハ´)「金……

 

(*)「お金ー」

 

( ´ー`)……

 

 

 3人の在り方は、他人からは不快に思えるかもしれない。

 しかし彼らが誰かに迷惑をかけたことはなかった。

 ただただ、楽をしてきただけ。

 

 なのだが。

 

 

( ´ー`)……ちょっと行ったところにヨ」

 

`ハ´)「ん?」

 

( ´ー`)「家があるんだ」

 

(*)「家なんてどこにでもあるだろ?」

 

( ´ー`)「そうじゃネーヨ。一軒家なんだけど、女の子が1人で住んでんだヨ」

 

`ハ´)「一軒家に1人アルか。贅沢アルネ」

 

( ´ー`)「しかも話によれば女子高生。俺も一度見かけたが、普通な子だったヨ」

 

 

485 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:13:01 ID:UwJRfMrAO

 

(*)「んで? 何?」

 

( ´ー`)「あのヨ……

 

 

 この日、彼らは魔が差した。

 

 

( ´ー`)――押し入ってさ、ちょっと脅したら……金、もらえるんじゃネーかな」

 

 

(*)……はあああああ?」

 

( ´ー`)「いや、まず初めは普通に泥棒として入ってヨ、こそこそ金探して……

      もし気付かれたら脅すって方向でヨ。相手女子高生1人だし」

 

`ハ´)「お前、正気アルか」

 

( ´ー`)「勿論本当に傷付けようとかは思ってネーヨ?

      ただ、金さえ……ほら、さあ。な?」

 

 

486 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:13:58 ID:UwJRfMrAO

 

(*)……

 

`ハ´)「……

 

( ´ー`)……

 

(*)――ちょっと、だけ、な」

 

( ´ー`)「そう、ちょっとだけ。ちょっとだけだヨ」

 

`ハ´)「……ふむ」

 

(*)「どうする? どうやる? もう行く?」

 

( ´ー`)「まあまあ、深夜まで待つヨ」

 

`ハ´)「何が必要アルか」

 

( ´ー`)「落ち着け落ち着けー。まずはいざというときのための武器だな……

 

 

 

*****

 

 

487 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:15:00 ID:UwJRfMrAO

 

 

(*д )――はあああ……

 

('`*川「満足しました?」

 

(*д )「はい。ごちそうさまでした。ごめんなさい、二つも」

 

('`*川「いいですよ、何故かいっぱいありましたもの」

 

ζ(゚、゚「むぐ」

 

 長岡家。リビング。

 

 二つ重なった容器を前に、ミルナは深々と頭を下げた。

 

 空腹で死にそうだと言うミルナに、ペニサスは冷凍食品のグラタンを食べさせた。

 まだ物足りなそうだったので、ドリアも。

 

 流れで、結局デレ達も夕飯は冷凍食品で済ませてしまった。

 

 

488 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:17:30 ID:UwJRfMrAO

  _

( ゚)「いやあ、しかし我が家の前で行き倒れるなんて奇遇だな。

     ねえ、……えーと、ミルナ、君?」

 

( д )「ええ、本当に。……驚かせてしまってすみません」

  _

( ゚)「いいよいいよ。それにしても、泊まる場所が見付からないとは災難だったね」

 

( д )「はい……明日は朝早くから取引先に向かわないといけないのですが」

 

('`*川「まあ、まあ。――それなら、ねえ?」

 

ζ(゚、゚「?」

 

('`*川「うちに泊まっていかれたら?」

 

(;д )……は」

 

('`*川「こうやって再会したのも何かの縁です。ミルナさんが嫌じゃないなら」

 

ζ(゚、゚(この人らは相も変わらず……

 

 知り合いとはいえ、新幹線で少し話しただけだ。

 そんな相手に対して全く警戒心を抱いていないペニサスに、

 デレは呆れたような視線を送った。

 

 が、この家族、揃いも揃ってお人よしである。

 ジョルジュもデレも、ペニサスの提案を拒む気はない。

 

 

489 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:19:17 ID:UwJRfMrAO

 

(;д )「そ、そりゃあ、ありがたいですけど……いくら何でもご迷惑じゃ」

 

('`*川「全然迷惑なんかじゃありませんよ」

  _

( ゚)「そうそう」

 

(;д )「折角の親子水入らずですし」

 

ζ(゚、゚「折角、って言っても……夏に一回会ってますから」

 

(;д )……

 

('`*川「ね?」

 

 ペニサスが、ぽんとミルナの背を叩く。

 ミルナは、しばし考え込み、

 

( д )――お願い、しても……よろしいでしょうか」

 

 と、再び頭を下げた。

 

 

490 >>488 × この人ら →○ この人:2011/04/10() 00:21:45 ID:UwJRfMrAO

  _

( ゚)「よーし、オッケーオッケー。どこで寝かそうか」

 

('`*川「後で予備のお布団出しましょう」

 

 こんなに優しい人達がいたものか。

 ミルナは感激し、瞳を潤ませた。

 

 この目のせいで、人とコミュニケーションをとるのが昔から少し苦手だった。

 上司からは生意気に思われるし、後輩や異性には恐がられる。

 進んで誰かと係わり合いになるのを避けていた。

 

 だから、ここまで親切にされたのは初めてに近かった。

 

 

 

( -д- )……かたじけない」

 

 

('`*

  _

( ゚)

 

ζ(゚、゚

 

 

491 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:23:50 ID:UwJRfMrAO

 

( -д- )

 

( -д )

 

( д )「あれ?」

 

 気付くと、ミルナは椅子の上で正座していた。

 きっちり背を伸ばし、姿勢良く正座していた。

 

 デレ達が唖然としている。

 

(;д )「え? あれ?」

 

 しかも、何だ、「かたじけない」とか言ってしまった気がする。

 武士か。

 

(;д )「あ、え、ちょ、今のは、あの」

 

('`*

 

('`*川「ぷっ」

 

(;д )「ぷ?」

 

 

492 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:24:33 ID:UwJRfMrAO

 

('`*川「あはは、面白い方ですねえ、ミルナさん」

  _

(*゚)「『かたじけない』ってwwww侍かwwwwww」

 

ζ(゚、゚「お父さん笑いすぎ」

 

(;д )……は、ははは」

 

 ペニサスとジョルジュがけらけら笑う。

 どうやらギャグだと思われたらしい。

 良かった。……良かった、のだろうか。

 

 

 

*****

 

 

493 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:27:13 ID:UwJRfMrAO

 

 

 

 デジタル時計の表示が2時に変わった。

 

 シラネーヨ達3人は手袋を嵌めて、車を降り、目当ての家へ向かった。

 角を曲がり、数メートル歩いたところにある一軒家。

 「長岡」という表札を確認する。

 

( ´ー`)……明かりはネーヨ」

 

`ハ´)「本当にやるアルか?」

 

(*)「今更訊くなよう……

 

 小声で言葉を交わし、まずはシラネーヨが鉄柵で出来た門を越えた。

 門の鍵を開け、シナーとつーを入れる。

 

( ´ー`)「この窓でいいか」

 

 ドアは無視して、左側、駐車スペース――車はないが――の前へ移動した。

 掃き出し窓がある。

 リビングの窓だろう、とシラネーヨが囁いた。

 

 

494 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:28:58 ID:UwJRfMrAO

 

(*)「出来る?」

 

( ´ー`)「一応調べた通りにやってみるけど、出来なかったら帰るヨ」

 

 シナーがペンライトで窓を照らした。

 鍵の位置を確かめる。

 

 ポケットからマイナスドライバーを取り出したシラネーヨは、

 その切っ先をガラスとゴムパッキンの間に差し込んだ。

 鍵の少し上辺り。力を込めて捻ると、罅が入った。

 

 ぱき、と音が鳴る。小さなものだったが、彼らにはひどく大きく聞こえた。

 

(;*)「だっ、大丈夫?」

 

;`ハ´)「……大丈夫、そんなに大きくなかったアル」

 

(´ー`)「お、おう」

 

 今度は鍵の下。先に入れた罅に向かうように抉ると、再び音が鳴った。

 罅と罅が繋がる。

 

 三角形に割れたガラスを抜き取り、シラネーヨは鍵に手を伸ばした。

 

 クレセントを引き上げ――解錠に成功する。

 

(;*)「すっげ……

 

(´ー`)「さっさと入るヨ」

 

 

495 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:30:41 ID:UwJRfMrAO

 

 窓を開け、3人は室内に乗り込んだ。

 どくどく、心臓が跳ね回る。

 

 真っ暗な部屋の中で、シラネーヨとつーもペンライトのスイッチを入れた。

 

;`ハ´)「……居間アルね」

 

(´ー`)「適当に棚とか漁って、金とか……金になりそうなもん探せ。

      10分経ったらずらかるヨ」

 

(;*)「おう……

 

 

 ふと、つーが照らした先。

 小さな明かりの中。

 

 

( д )

 

 

 男が、彼らを見ていた。

 

 

 

*****

 

 

496 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:32:34 ID:UwJRfMrAO

 

 

 

 風呂から上がったミルナに、ペニサスは言った。

 

('`*川『2階に、ちょっとした物置になっている部屋があるんですけれど、

     少し掃除したら広めのスペースとれますから。

     そこで眠っていただいてもいいですか?』

 

 文句などある筈がない。

 ミルナは頷こうとした、のだが。

 

( д )……リビングで寝ても、よろしいでしょうか』

 

 唐突に思い至って、彼はそう告げた。

 

('`*川『あら。いいんですの?』

 

( д )『何だか、ここで寝ないといけない気がして』

 

('`*川『ふふ、何ですの、それ。

     私は構いませんよ。たしかに物置よりはそっちの方がいいですし。

     じゃあ、お布団持ってきますね――』

 

 

 そうして、リビングの奥に敷いた布団でミルナは眠ることにした。

 デレ達も各自就寝し、長岡家は暗闇と静寂に包まれる。

 

 

497 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:36:03 ID:UwJRfMrAO

 

 

 すっかり寝入っていたミルナは、物音で目を覚ました。

 上体を起こし、息を潜めて様子を探る。

 

 からから。窓が開く音。

 闇に慣れた目は、カーテンが揺らぎ、一筋の光と複数の人影が入り込んでくるのを見た。

 

 一つだった細い光が三つになる。

 漁るだの金だのと不審な話し声。

 

 その内に、ある光がミルナに向けられ――今に至る。

 

 

(;*)「え?」

 

(´ー`)「なっ……!」

 

;`ハ´)「……女子高生アルか?」

 

(´ー`)「んなわけネーヨ、普通におっさんじゃネーか!」

 

 急に、ミルナの目が収縮するような感覚に覆われた。

 闇の中なのに、侵入者の姿が鮮明に見える。

 

 男が2人、女が1人。

 

 考えるより先、立ち上がったミルナはキッチンへ飛び込んだ。

 並んでいる調理器具を適当に掴み、リビングに戻る。

 

 

498 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:38:16 ID:UwJRfMrAO

 

 

 一方のシラネーヨ達は困惑しきっていた。

 大人、それも男がいるなんて想定外だったのだから。

 

 そうこうしている間に、男――ミルナが再び現れる。

 

(#д )「この……曲者が!!」

 

(´ー`)「くっそ、家間違ったか!?」

 

(;*)「ややっ、やべえよシラネーヨ!」

 

;`ハ´)「あ、あいつ何持ってきたアルか!? まさか刃物――

 

 シナーがミルナの手元にライトを向ける。

 彼がキッチンから持ち出したのは。

 

 

499 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:40:29 ID:UwJRfMrAO

 

 

(#д )「成敗!!」

 

 

 菜箸だった。

 

 

(´ー`);`ハ´(;*)「お箸だ――――――――――!!!!!」

 

(´ー`)「箸じゃネーか! 長いけど箸じゃネーか! ビビって損した!!」

 

;`ハ´)「どうするアル?」

 

(;*)「逃げるか!?」

 

(#д )「逃がすか!」

 

 ミルナがシラネーヨに向かって駆ける。

 シラネーヨは一瞬思考し、

 

(´ー`)……んな箸で何するっつうんだヨ!!」

 

 ポケットに忍ばせていた果物ナイフを取り出した。

 

 

500 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:43:56 ID:UwJRfMrAO

 

(;*)「や、やるんか! やっちまうんかシラネーヨ!!」

 

(´ー`)「だってあいつ、この局面に箸持ってきてんだぞ!?

      男がナメられたままでいられっかヨ!」

 

 殺そうなどとは思っていない。

 傷付けたいわけでもない。

 

 ただ、ナイフを見て恐がってくれたら、それで良かった。

 

 なのに。

 

(#д )「そんな刀で俺をやれると思ったか!?」

 

 怯む素振りを全く見せず、ミルナは近付いてくる。

 シラネーヨは咄嗟にナイフを突き出した。

 

 そのままでは間違いなくミルナの胸に刺さっていたであろうそれは、

 かつ、と軽やかな音をたてて、動きを止められてしまった。

 

 

501 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:46:44 ID:UwJRfMrAO

 

(´ー`)……は!?」

 

( д )「遅い」

 

 ――菜箸に、掴まれたのだ。

 

 挟み込まれたナイフは、シラネーヨが押しても引いても、びくともしない。

 

 ミルナが菜箸を引っ張ると、つられてナイフがシラネーヨの手から抜けた。

 ナイフを床に捨てる。これで、シラネーヨ達から武器はなくなった。

 

(;*)「あわわわわ」

 

;`ハ´)「は、刃物が箸に負けたアルヨ……

 

(´ー`)……

 

( д )「さあ、盗っ人共」

 

( д )「貴様らまとめて、切り捨ててやる」

 

 普段のシラネーヨならば、菜箸で切れるかよ、と冷静につっこんでいただろう。

 しかし、今の彼にそんな余裕はなかった。

 

 いるとは思わなかった存在。立ち向かってきたミルナ。木製の箸に負けたナイフ。

 何より、睨みつけてくるミルナの目。

 それら全てが、シラネーヨから判断力を奪った。

 

 

502 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:50:00 ID:UwJRfMrAO

 

(´ー`)「あ、あ……

 

 本当に殺される。

 

 シラネーヨの足から力が抜けかけた、瞬間。

 

 

     「何してるんですか!?」

 

 

 リビングに光が溢れ、少女の声が響いた。

 

 

( д )「おデレさん!」

 

ζ(゚ー゚「お、おデレさん!?」

 

 

 声の正体はデレだった。

 リビングの入口に、明かりのスイッチに手を伸ばした体勢で立ち尽くしている。

 

 

503 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:51:44 ID:UwJRfMrAO

 

ζ(゚、゚「トイレに起きてきたら何か騒がしくて……ど、どういう状況ですか?」

 

( д )「盗っ人だ」

 

ζ(゚、゚「ぬすっ……えっ、泥棒!?」

 

 ミルナがデレに視線を向けて、出来た隙。

 シラネーヨ達は、開けっ放しの窓へ走った。

 

(´ー`)「逃げるヨ!!」

 

;`ハ´)「把握アル!」

 

(;*)「おうよ!」

 

(#д )「あっ、待ちやがれ!」

 

 声では制止したものの、追いかけることはしなかった。

 息をつき、近くにあった椅子に腰を下ろす――と、同時。

 

(;д )……あ、あれっ……?」

 

 ミルナは、我に返った。

 

 

 

*****

 

 

504 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:54:55 ID:UwJRfMrAO

 

 

 

 3人は車に飛び乗った。

 震えそうになる手でエンジンをかけ、ギアを入れ、アクセルを思いきり踏んだ。

 

 しばらく走り、シラネーヨのアパートも通りすぎた辺りで、ようやく彼らは落ち着いた。

 

(´ー`)……あの女の子だったヨ」

 

;`ハ´)「何がアルか」

 

(´ー`)「一人暮らしの子。んじゃあ、あの男、ありゃ誰だ……

      親にしちゃあ若い。兄貴にしちゃあ老けてる」

 

(;*)「歳の離れた兄貴なんて結構いるぞ」

 

(´ー`)「そりゃあそうだけどヨ……

 

(;*)「もしくは親戚とか恋人とか……ああ、もう、知るか」

 

 

505 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:55:44 ID:UwJRfMrAO

 

;`ハ´)「……はあ。何にせよ失敗アル。私達どうなるアルかね」

 

(;*)「捕まっちゃうかなあ」

 

(´ー`)……

 

 とっくに閉まったスーパーの駐車場。

 そこに車を停め、シラネーヨは溜め息をついた。

 

( ´ー`)……どうせ捕まるならヨ」

 

(;*)「ん?」

 

 

( ´ー`)――あの野郎に、仕返ししてやろうじゃネーか」

 

 

(;*)……

 

;`ハ´)「……

 

(;*);`ハ´)「出来んの?」

 

( ´ー`)「シラネーヨ」

 

 

 

*****

 

 

506 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:57:25 ID:UwJRfMrAO

 

ζ(゚、゚「う、うわわっ、窓に穴あいてる……ひいっ、何これナイフ!?」

 

(;-д- )……

 

 慌てふためくデレ、頭を抱えているミルナ。

 窓を閉め、床に転がるナイフを拾い上げたデレは、ミルナの隣の椅子に腰掛けた。

 

ζ(゚、゚「ミルナさん、何があったんです? ……あれ、こんなところに菜箸が」

 

(;-д )――奴らが侵入する音で、目が覚めたんだよ。

     そしたら、……急に、戦おうって思って……」

 

ζ(゚、゚「急に」

 

(;-д )「ああ、急に。それで、キッチンから取ってきた菜箸で――信じられないけど、

     勝っちゃったよ。俺は別に喧嘩が強いわけでもないのに。

     ……何て言うかな、武士が乗り移ったみたいだ」

 

ζ(゚、゚……

 

 菜箸に目を落としたデレは、はっとして椅子から立った。

 

ζ(゚、゚「とにかく、警察!」

 

(;д )「あ……そ、そうだね」

 

ζ(゚、゚「お母さん達、起こしてきます」

 

(;д )「俺も行くよ」

 

 

507 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 00:59:15 ID:UwJRfMrAO

 

 2階に行き、両親がいる寝室のドアを強めにノックする。

 5回目に叩いた頃、中から眠たげな声が返ってきた。

 ドアが開く。

 

('`*川「どうしました、デレさん……。あら、ミルナさんも」

  _

( ゚-)「まだ夜中だぞ……

 

 デレが泥棒のことを説明すると、両親は顔を見合わせた。

 視線だけで会話をしているのか、頷き合う。

 

 そして。

 

('`*川「……まあ、何も盗られてないなら……

  _

( ゚)「放っといてもいいんじゃないかなあ」

 

 と、呑気に言い放った。

 

 

508 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:01:26 ID:UwJRfMrAO

 

(;д )「いやいやいやいやいや」ζ(゚、゚

 

('`*川「だってそうでしょう? きっと泥棒さん達も懲りましたよ」

  _

( ゚)「被害がないのに警察の方達に迷惑かけるのも……

 

(;д )「ええええええええええ」

 

ζ(゚、゚「被害あったって! 窓に穴あけられたし!」

 

('`*川「紙か何かで塞いどいてくださいね。朝になったら業者さん呼びます」

  _

( ゚)「そうだ、ミルナ君お疲れ様。ありがとう」

 

('`*川「ええ、家を守ってくれてありがとうございます!

     でも無茶はしたら駄目ですよ」

 

(;д )「はあ」

  _

( ゚)「じゃあ、おやすみ」

 

('`*川「おやすみなさい」

 

 ドアが閉められる。

 

 デレとミルナはしばらく呆然としていたが、やがて、ミルナの方が口を開いた。

 

 

509 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:04:09 ID:UwJRfMrAO

 

(;д )……君のご両親は、何か……凄いね、色々と」

 

ζ(--;ζ「昔からこうなんです。……そうだ、ミルナさん」

 

(;д )「はい?」

 

ζ(゚、゚「あの、さっきの泥棒のことで、何か思い当たることありませんか?」

 

( д )「これまで?」

 

ζ(゚、゚……最近読んだ本に、似たような展開がある、とか」

 

( д )「本」

 

 数秒後、ミルナが手を打った。

 あった。

 似たような展開。

 

( д )「時代小説なんだけど。空腹の浪人が、ある家にお世話に――

 

(;д )――…………?」

 

 ぽかんと口を開けて固まったミルナ。

 見る見る内に、顔が青ざめた。

 

 

510 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:06:26 ID:UwJRfMrAO

 

(;д )「一緒。一緒だ。本当に。ほとんど一緒……

 

ζ(゚、゚「その本持ってますか!?」

 

(;д )「も、持ってる、鞄に入ってる!」

 

 急いで階段を下り、ミルナが寝ていた布団に駆け寄る。

 枕元に置いていた鞄を引っくり返し、中身をぶちまけた。

 

 柳色の本。

 それを持ち上げる。

 

(;д )「これだ。この話……

 

ζ(゚、゚「すみません、見せてください!」

 

 手渡された本の表紙。

 そこに、恐らく筆で書かれたのであろう文字。

 

 タイトルと、著者――「茂等モララー」。

 

 

511 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:07:03 ID:UwJRfMrAO

 

ζ(゚、゚……モララー、さん」

 

 やはり。

 

 

 ミルナは、「主人公」にさせられたのだ。

 

 

 

 

 

第四話 続く

 

 

512 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:10:13 ID:fTQvHFmsO

続きが気になる

支援

 

 

513 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:12:02 ID:UwJRfMrAO

今回の投下終わりです

次回投下は多分来週中。早ければ火曜とか水曜辺り、遅ければ金曜とか土曜辺り

 

読んでいただき、ありがとうございました!

 

 

しおり的な目次的な

 

第二話前 >>104

 

第二話後 >>175

 

第三話前 >>250

 

第三話後 >>333

 

第四話前 >>431

 

 

 

ではでは

 

 

514 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:13:31 ID:B3VgBXN20

乙カリー

 

 

515 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:15:16 ID:keDhKcNoO

乙うううううううん

 

 

516 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 01:43:02 ID:gFKcUQtI0

乙!

モララーのキャラいいなwwwwww

 

 

517 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 09:29:05 ID:UwJRfMrAO

やだ、堂々としたミス発見

 

>>509

( д )「これまで?」

 

を、

 

( д )「何かって?」

 

 

に脳内ですり替えといてください

相手の言葉ちゃんと聞けよなミルナったらもう

 

 

518 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 09:39:22 ID:j0dKSacw0

安定感が素晴らしい

 

 

519 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 13:18:00 ID:Kxb.966Q0

乙デレさん!

 

 

520 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 17:09:47 ID:n9itNDp.0

モララーがいい感じにキモい

 

 

521 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10() 17:58:30 ID:Xp7ApHi60

来てたのか

 

 

522 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/11() 20:21:20 ID:JPqmUoqcO

デレちゃんぺろぺろ

 

 

523 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/12() 04:12:52 ID:UIuZi9Tw0

僕もデレちゃんに裸見られたいでブヒィッ?

 

 

524 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/14() 15:52:47 ID:31mhLhW20

続きが早く読みたすぎてうずうずする

 

 

525 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/15() 21:03:13 ID:fPlQRK3w0

今日か?明日か?

待ちきれん